「芸が身を助ける程の不仕合せ」ということがあるが、道楽でやっていた私の植物研究はここに至って唯一の生活手段となったのである。
学位や地位などには私は、何の執着をも感じておらぬ。ただ孜々として天性好きな植物の研究をするのが、唯一の楽しみであり、またそれが生涯の目的でもある。
もしも植物が無かったなら私はどれほど淋しい事か、またどれほど失望するかと時々そう思います。植物は春夏秋冬わが周囲にあってこれに取り巻かれているから、いくら研究しても後から後からと新事実が発見せられ、こんな愉快な事はないのです。
平素見馴れている普通の植物でも、更にこれを注意深く観察していきますと、これまでまだ一向に書物にも出ていないような新事実、それは疑いもなく充分学界へ貢献するにも足る新事実が見つかります。